2002年☆620円
黒いマントにシルクハット、片眼鏡といういでたちで怪盗道化師(かいとうピエロ)に変装した西沢書店のおじさんは、こんなビラをつくりました。
怪盗道化師(ピエロ)参上!!
なんでもぬすみます。ただし─
☆ 世の中にとって値打ちのないもの
☆ 持っている人にとって値打ちのないもの
☆ それをぬすむことによってみんなが笑顔になれるもの
れんらく先は 西沢書店まで
最初にお願いにきたのは小学校2年生くらいの女の子、美絵ちゃんでした。
「あのね、クラスの男の子から、悪口をぬすんでほしいの」
としひろくんが美絵ちゃんに悪口を言っていじめるのだそうです。
さて、西沢のおじさん、ではなく怪盗道化師(ピエロ)は、としひろくんの口からどうやって悪口をぬすむというのでしょうか。
*本書では「道化師」にかならず「ピエロ」とルビがふってあります。以下、「道化師」は「ピエロ」と読んでください。
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クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で物語を書いてしまったという小学校教師が はやみねかおる です。その筆からは、ご存知「名探偵 夢水清志郎」、虹北みすてり商店街の「少年名探偵 虹北恭助」、新シリーズで主役の座を射止めた「怪盗クイーン」など、魅力的なキャラクターが生みだされてきました。
はやみねデビューは26歳のとき。手書き自家製本の原稿が児童文学新人賞に入選して出版されたのが『怪盗道化師』でした。それから12年、品切れで入手困難だったまぼろしの<fビュー作が「青い鳥文庫」で復刊されました。本書にはオリジナルの私家版から半分の短編19編が収められています。
国立大学の教育学部を出て小学校の教師になったはやみね。ひげ≠ニ同世代であり、同じ時代に同じ仕事をしてきたということだけで(勝手な)親近感を覚えています。
世代も時代も仕事も同じですから、物語の設定から人物、背景、小物にいたるまで、「わかるわかる、そういうのってあるね」と、人気作家についタメ口もきいてしまいます。
そのうえ、「あとがき」にあったこの文章...。
子どもたちに、「悪口はダメだ!」というあたりまえでかんたんなことを、いえなかったのです。教師が黒板を背にして、高みから見おろすように正論をいうのが、なんとなくイヤだったのでしょうね。
だから、ぼくは『怪盗道化師』の物語を書いたのです。
物語を読んだ子どもたちが自分で、「そうか、悪口って、いけないことなんだ」って気づいてほしかったから。(といいながら、黒板を背にして正論をいってもいましたけどね......。)
共感します。ひげ≠燻痰「ころ同じようなことを思っていました。教師というだけで権威があるような錯覚に陥りがちでした。それが嫌で、わざと先生らしくなくふるまったりして。
そのとおり、言っていることはかっこいいのです。けれど徹しきれない。(といいながら〜)と落として二枚目半を演じてしまうところなど、恥ずかしがり屋の気持ちまでよくわかります。
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怪盗道化師にぬすんでほしいものがあると、人びとは西沢書店にやってきます。魚いそのご隠居は秋祭りの準備にあらわれるゆうれいを、3年生くらいの女の子は家の前にできる十階建てのビルの影を、5年生くらいの男の子は自転車にも乗れないほどの悪い運動神経を...。
道化師は、パートナーの愛犬ゴロと力をあわせ、知恵をつくして依頼人のねがいをつぎつぎと──けっしてかっこうよくはないけれど、ときどきは幸運にもめぐまれて──解決していきます。
そして、最後の依頼人はこの物語の作者でした。
──長いあいだ書いてきた物語の主人公が病気にかかってしまい、あと一か月で死んでしまうのです。わたしは、そんな悲しい話を書きたくありません。考えたすえ、わたしは道化師に相談することにしました。
「わかりました。道化師に、なんとかするように言いましょう」
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今年度、4年生のクラスの読み聞かせ第2弾としてとりあげました。1日5分ずつ3日ほどで1編読むことができます。
毎朝の連載≠ェスタートして1か月半、全体の半分くらいまできたところで、
「おもしろかったら、あとは自分で読んでね」
子どもたちがどこかで道化師に再会してくれることを願いながら、読み聞かせを終えました。
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『怪盗道化師』
2002-06-29-Sat
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