2004年☆1300円
前号、5年生の読み聞かせ候補にあげた7冊の中から手にとったのは、この本でした。
児童書コーナーを歩いていて、読んでほしそうにうったえる背表紙が目に飛びこんできたのです。先月ご紹介した『ブンダバー』と同じですね。
棚から取りだしてみると、表紙はなんとなくごちゃごちゃとした感じがします。ページを開くと、ところどころにイラストはあるものの、文字がつまっていてとっつきにくい“顔”をしています。
「読みにくそうだ。こりゃ、だめかな」
と思いましたが、帯のことばにひっかかり、すこし読んでみました。
あの「ほらふき男爵の冒険」を越える
これがほんとのミラクル&アドベンチャー
第一話を立ち読みしてみると、あまりよくなかった第一印象はよいほうにはずれていました。ページをめくるたびに、おもしろさにぐんぐん引きこまれていきます。
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わたしの名前は基本紳士。へんな名前だと思った人もいること
だろう。そして、君たちが思っているとおり、本名ではない。で
は、本名は?
忘れてしまった、と言ったら信じてもらえるだろうか。たぶん
信じてはもらえまいな。でも、それは事実なのだ。両親が授けて
くれた名前は忘れてしまった。亀三郎だったかジョンだったか、
はたまたホセだったか……。
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まじめぶった語り口で読みすすめながら、
「では、本名は?」
で間をとり、
「忘れてしまった」
と落としてみましょう。
きっとここで子どもたちに笑顔が広がるにちがいありません。
そして、追いうちをかけるように、
「亀三郎だったかジョンだったか...」
この本、うまくいきそうです。すぐにレジにむかいました。
◇
わたし=基本紳士は、世界滅亡の危機を救ったことがあります。某超大国どうしの核戦争がはじまりそうだという情報を得たときに、大統領が最終ボタンを押すのを阻止するため、友人の力を借りることにしました。
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わたしの友人に「ビッグ・イアー」というのがいる。姿は小型
のコウモリそのもので、体長(この場合、羽を広げた長さ)17.8
センチメートル、体重35.2キログラム。その名のとおり耳が
とても大きい。
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ここで「あれっ?」とひっかかったらたいしたものです。
どこがおかしいか、耳から入ってきたことばだけで聞きとり、理解できているからです。
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そう、体の大きさは、わずかエンピツほどしかないのに、体重
は人間の子どもほどもあるということだ。顔はかわいいコブタの
ようで、おまけに声も小さいので、その体重を忘れてついうっか
り指にぶら下げようものなら大変なことになる。現にこのわたし
は、ビッグ・イアーのおかげで三度指を骨折している。ビッグ・
イアーがとまったために、わたしの家の応接間にある高価なシャ
ンデリアが落ちてきたことも一度や二度ではない。カーテンも落
ちるし、物干しざおも折れる。
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ここまでくれば情景が目にうかび、“おかしい”理由がわかりますね。
そして、「なんだ、この本はほら話か」と納得し、心身ともにリラックスして聴ける態勢ができあがります。
荒唐無稽な話にはじめは面食らいながらも、こんどの本はシリアスものではない、笑っていいんだな、と気がつくわけです。
そうなればしめたもの。読み手のペースですすめることができます。
──荒唐無稽。
そう、本書はまさに現代版「ほらふき男爵の冒険」です。
百年睡眠の技で眠り、千里眼の術をつかってコロンブスといっしょに新航路を発見し、透明になる技で孫悟空の子孫の猿を助け、「重量下げ」の技でビッグ・ノーズとともにライト兄弟を...そんな「ほら話」が五話、たっぷりつまっています。
◇
本書はモノローグ、独白の形で書かれています。読み聞かせにはすこしむずかしく感じるかもしれません。
回想場面では対役が登場し会話文が入りますが、基本的に「わたし=基本紳士」の語りですすめられているからです。状況説明が長く、単調になってしまいがちなので注意が必要です。
そこでどうするか。
一人芝居を思いうかべてみてください。舞台にいるのはあなた一人。スポットライトのあたった役者になったつもりで、観客に語りかけるように、緩急をつけて読んでみてください。
それから、注意をもう一点。
聞き手を小ばかにしたような言い方がところどころに出てきます。
「わたしに比べれば、まるで基本の足りない、想像力の乏しい君たちは」
「まあしかし、君たちが考えるくらいのことは、わたしならとっくに考えておる」
「まあよい。君たちは、その基本をようやく身につけようとしているところだからな」
皮肉やいやみではなく、ジョークだと笑いあえる関係が子どもたちとのあいだにできているといいですね(よけいなお世話かな)。
いずれにせよ、挑戦してみる価値のある本です。
5分ずつ読んで各話5〜7回ほど。全編読むには30回くらいかかります。
歯ごたえのあるほら話、子どもたちとたのしんでみませんか。
◇
おまけの話。
書店で立ち読みしているとき、“におい”がしました。この本の雰囲気にどこかで触れたことがある、という感覚です。
イラストは森田みちよ。『ぶたぬきくん』を描いた人です。
もしかしたらと思い、奥付を見てみました。
ビンゴ!
「編集協力 斉藤洋」
そうです。これは斉藤洋の手の入った本だったのです。
(登場人物のネーミングあたりにサジェスチョンしているのではないかとにらんでいます)
↓
『うそか? ほんとか? 基本紳士の大冒険』
2004-11-12-Fri
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