2004年☆2000円
富士山のふもとの温暖な小都市にある小学校が舞台です。
2月10日月曜日の朝、5年3組の教室に奇妙なことがおきていました。
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僕の席が、変なことになっている。
机の上に、妙な物が乗っているのだ。
たて笛。
正確に言えば、その部品。
ご存じのように、たて笛というのは、三つのパーツに分かれる
ようになっている。吹き口と、まん中の細長い部分と、先っぽの
短い部品、その三つだ。
僕の机に乗っているのは、その両先端だけ。吹き口と先っぽ。
二つの部品が、並べて立てて置いてある。
[ 中 略 ]
でも、肝心のまん中部分が見当らない。一番長い、指でおさえ
る穴があいている部品。それがどこにもない。机の下などを覗い
てみても、見つからない。なくなっている。
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5年3組では、ちょうど1週間前の月曜日から、“あるもの”がなくなる事件がつづいていました。
最初になくなったのが掲示してあった写生の絵1枚、つづいて学校で飼育しているニワトリ1羽、それから募金箱にしていたハリボテの招き猫、そして今朝のたて笛のまん中部分だけ。
なくなった4つのものに共通することがありました。
それは、どれも“いらないもの”である、ということです。
当事者の一人である「僕=藤原高時」は、5年3組におきた不可解な“不用物連続消失事件”のなぞを推理しようと、なかよしの「龍之介くん」といっしょに探偵活動をはじめます。
◇
ご紹介したのは、5年生の3学期にとりあげた本、つまり現在進行形で読んでいる本です。
...現にいま読んでいる本ではあるのですが、この本が「読み聞かせ」に適しているかというと、そうとは言いきれません。
おもな登場人物だけで男女2人ずつ4人いて、みんなおなじ小学5年生です。いっしょに活動している場面で、性格や考え方、行動パターンにあわせて4人のセリフを読み分けるのはとてもむずかしいものです。
また、“連続消失事件”のなぞを理詰めで推理していくところなど、ストーリーがぐいぐいとすすんでいくものではないので、ぼんやり聞いていると意味がわからなくなってしまいそうです。
さらに、「僕」の目から見た一人称の語りの形式で書かれていることも、一般的には読み聞かせにはむいていません。
子どもたちがあくびをはじめるようならすぐにやめて別の本にしようと思いつつ、毎日5分の読み聞かせをスタートしました。
読みはじめて数日、聞いている子どもたちの反応は、目に見えるかぎりではよくありません。ここはおもしろいだろうというところでもいつものような笑い声がおきることもなく、案じたとおりのようです。
はやめにつぎの本にかえようかなと思いながら読みすすめていました。
ただ、はっきりとした反応はないのですが、目がかがやいているのは感じていました。
◇
ところで、これはとても“ぜいたくな本”です。
なにがぜいたくかって、第一に造本がぜいたくです。ハードカバーの箱入りで、背は布張り。しおりひものついた345ページもある分厚い本です。
第二に、値段がぜいたくです。本体価格2000円。青い鳥文庫のように子どもがこづかいで気軽に手にできる本ではありません。
そして第三に、著者がぜいたくです。“本格推理の旗手”として知る人ぞ知る、そして10年間で8作という寡作な作家としても知られる、あの『星降り山荘の殺人』の倉知淳が書き下ろしたいちばん新しい本なのです。
本書は講談社「ミステリーランド」第6回配本の一冊です。
かつて子どもだったあなたと
少年少女のための──
ミステリーランド
「ミステリーランド」シリーズには、子どももおとなもたのしめることをコンセプトに書き下ろされた本がずらっとならんでいます。
はやみねかおる、森博嗣、島田荘司、篠田真由美、小野不由美、太田忠司、有栖川有栖...と、既刊分だけでもこれだけ豪華な執筆陣が顔をそろえた、ほんとうにぜいたくなシリーズです。
(総ルビで、2年生でも読めます...読むだけなら)
勤務校では毎年クラス替えがあり、担任の“持ちあがり”はありません。
いまのクラスも3月で解散、4月からつづけてきた読み聞かせももうすぐおしまいです。
そこで、5年生のさいごにとっておきのプレゼント、“ぜいたくな”本をえらんでみた、というわけです。
◇
ダメモトで読み聞かせをつづけて1週間ばかりたったころ、日記(のようなもの)
にこんなことを書いてくれた子がいました。
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「でかけるよ〜」と、私もくつをはいた。本をかいにいくのだ。
かいにいく本は『ほうかご探偵隊』だ。
私があつさがある本にきょうみをもつのは、はじめてかもしれない。
『ハリー・ポッター』もあんまりよまないのだ。
[ 中 略 ]
「あったぁ〜〜〜」
うっていた。私はうれしかった。
ここにもなかったらどうしようっておもっていた。
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おうちの方が「読むなら買ってあげる」と言ってくださったそうです。
手に入れた本をたいせつそうに見せてくれました。
朝読書の時間にすこしずつ読んでいるようです。
ほかにも、買いに行った書店で品切れと言われた、ほしいけれどどうしよう、という子もいました。
事件が展開するにつれて子どもたちの反応もよくなり、ここぞというところで笑い声も聞こえるようになってきました。
倉知淳の探偵小説は、子どもたちの心にしっかりとどいていたのです。
ぜいたくをしてよかった!
◇
1日5分、5ページずつのペースで読んできて、ちょうど全体の四分の一まできました。
終業式まであと30日あまりしかありません。事件のなぞ解きまで読みきれるかどうか、それだけが心配です。
↓
『ほうかご探偵隊』
2005-02-11-Fri
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