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web『たまてばこ』特集

教育実習顛末記

教室にやってきた実習生と4年1組の子どもたちのドラマ



     





教育実習〜幕開

「来週からこの教室に実習生がきます。名前はNさん。教育実習というのは、先生になるための...」

 教員免許のシステムからNさんが本校の卒業生であることまで、4年生の子どもたちにかみくだいて説明していく。

「年齢(とし)はぼくとたいしてかわりません。240か月ちがいくらいかな」

 ポカーンとした表情が広がる (?_?)
 あれー、ジョークが通じなかったー (^^;


「240ってことは、なんだ、2歳か...」
「そうそう、2歳ちがいだよ!
 (^Q^)/ ぎゃははははははは _(_ _)ノ彡☆バンバン!」

 ふだんから回転の“速い”子が一生懸命に計算してつぶやいたのを聞いて、大笑いしてしまった。
 なぜ笑われたのかわからないその子は、ふたたびポカーン (?_?)
 それでもブツブツ言いながら計算しなおしている。

「えーと、1年で12か月だから、24で2年だよなー...あー、ちがった、20年だ!」
「そうだよ、20歳ちがいだよ。ぼくが二十歳(はたち)だから、Nさんは0歳だ」

 ここまでくると、ジョークも苦しくなってくる。この計算、正解は出さないでおこう。


 ともあれ「240か月ちがい」というのはほぼ事実に近い。新卒のころ担任した子と同じくらいの年齢の子、じゃなくて立派な青年が、明日から4週間、わが4年1組の一員となる。
 ダブルスコアに近い歳の差はいかんともしがたいが、気持ちだけは負けないようにしよう!


 蛇足...。
 「240か月」のオリジナルは『少年名探偵 虹北恭助の冒険』(はやみねかおる/講談社ノベルズ)という本にある。
 6年生の名探偵 恭助 の同級生 響子 が担任の女の先生を紹介する一節。

  風街(かざまち)先生。歳は二十歳と一八〇ヵ月くらい。(って自分で言ってる)

 これにならって自己紹介をしてみると...。

  ひげうさぎ先生。歳は二十歳と二四〇ヵ月くらい。(って自分で言ってる)

 あれ、少し足りないかな (^^ゞ

web『たまてばこ』 No.315 2002-05-19-Sun


教育実習〜1

 教育実習の学生を指導するのは本務ではない。教育学部の附属学校なら話は別だが、ここはふつうの公立小学校。実習生の受け入れはまったくのボランティアである。

 4週間のあいだ学生が教室にいることになるのはよしとしよう。見られて困ることを子どもたちにしているわけではない。
 しかし、実地授業・研究授業・全日経営──ただでさえ少ない授業時数をあてることになる。かりに授業を“失敗”したとしても、その時間は回復されない。
 さらに、事前指導・事後指導──実習生の指導によって校務分掌が軽減されるわけでもない。ふつうに仕事をしたうえで、実習生の相手をすることになる。勤務時間内にはとうてい終わらない。
 できれば貧乏くじを引きたくない、というのが本音である。

...いきさつがあって実習生を指導することになった。貧乏くじ、大あたり!


 実習生はNさん。教育学科の4年生。勤務校の卒業生であり、“ひげ”の父が園長をしていた幼稚園の卒業生でもある。縁があったんだなぁ。

 あたってしまったらしかたがない。せっかく4週間も勉強してもらうのだ。できるだけのことはしてあげよう。
 十日前のうちあわせのとき、こんな話をした。

──Nさん、もしあなたが「役に立つかもしれないから教員免許をとっておきたい」という程度の気持ちでこの実習をするのなら、ぼくもそのつもりで適当にやります。子どもたちとぼくの貴重な時間を無駄にしたくありませんから。やる気がなくても、成績でしかえししたりはしません。単位はあげます。安心してください。そのほうがおたがいのためです。
 でも、もしあなたがほんとうに先生になりたくて実習をするのなら、覚悟してください。じっさいに教壇に立ったときに困らないように、できるだけのことをします。4週間、みっちり仕込みます。遊びに行く暇も気力もなくなると思います。山にこもって修業するつもりできてください。
 さて、Nさん、どちらですか。

──こんなことを言われて、すぐに返事なんてできないでしょう。実習初日までの宿題を2つ出しておきます。
 一つめ、クラスの児童名をひらがなと漢字で暗記しておくこと。名簿の順に27人、すらすら言えるようにしておいてください。
 二つめ、子どもたちへの自己紹介を考えてくること。自分の名前を印象づけられるような紹介をしてください。
 やってきたかどうかで、この実習にむかう気持ちを判断します。


 厳しい担任にあたってしまったと思ったのではないか。指導凶漢に見えたかもしれない。


 さて十日後、実習生として子どもたちの前に立ったNさんは...。

web『たまてばこ』 No.316 2002-06-23-Sun


教育実習〜2

 うちあわせから十日後、Nさんの教育実習が始まった。


 担任に紹介されたNさんが子どもたちの前に立つ。何が始まるのだろう。子どもたちは興味深そうにNさんを見たり、近くの友だちとこそこそ話したりしている。

「みんなの名前を呼ぶから、呼ばれたら立ってください」

 えっ?「名前を呼ぶ」ってどういうこと? 子どもたちのざわめきが大きくなる。

「○○まみ」

 このひとことで空気がひきしまった。今朝はじめて教室にやってきた見ず知らずの若い“先生”が、とつぜんクラスの友だちの名前を呼んだのだ。驚くのもあたりまえである。

 どの子だろうと教室を見まわすNさんにうながされるように、呼ばれたまみさんが立ちあがった。

「よろしく」
「よろしくお願いします」

「○○こうき」
「よろしくお願いします」
「○○りょうすけ」
「よろしくお願いします」

 Nさんは、何も見ずにクラスの子どもたちの名を呼んでいく。呼ばれた子は戸惑いながら腰をあげ、照れくさそうにあいさつを返す。
 あさみ、ゆき、りょう...。
 すらすらと続く呼名。いったいどこまでいくのだろう。
 なおひろ、まさのぶ、こうだい...。
 半分をすぎるころから、呼ばれる子どもたちのドキドキが高まっていく。この宿題を出した“ひげ”も、もちろん緊張が増す。最後まで言えるのだろうか。

 そんな心配をよそに、呼名はつかえることなく進む。そして、りさ、しょう、ゆき。名簿順にならんだ27人全員の名前を間違いなく呼び終えた。

「ワー、すごーい!」

 教室は拍手の嵐。(*^^)//。・:*:・°'★,。・:*:♪・°'☆ パチパチ
 出会いを飾るNさんのみごとなパフォーマンスに、子どもたちのNさんを見る目がいっぺんに変わった。

「“ひげ先生”よりすごい!」

 こらこら、よけいなことを言うんじゃない。この脳みそだって“240か月前”にはそのくらい朝飯前だったんだ!


 宿題を一つクリアしたNさん。この実習にむかう真剣な気持ちをたしかめることができた。
 “ひげ”は指導凶漢から指導教官に へんし〜んっ \(0\0)ゝ 〃(0\0)/

 “教師”という仕事のはじめの一歩を踏みだしたNさん。これから4週間、みっちりしごくからそのつもりで。
 精一杯やりぬいた最後の日には、とびきり極上のプレゼントを用意しておこう。

web『たまてばこ』 No.317 2002-06-29-Sat


教育実習〜3

 指導教官による“しごき”が始まった。


「子どもの名前を覚えてきて。名簿は暗記できたから、こんどは顔と名前が一致するように。金曜日が遠足だから、そのくらいまでに。月曜日、子どもたちの前でテストするよ」

「今日の5時間目、ぼくは出張でいないんだ。国語の授業、子どもたちのめんどうみてね。漢字テストとその丸つけ。実習初日から担任がいなくて悪いんだけど、お願い。なんとかなるでしょう」

「国語の実地授業なんだけど、単元の中の1時間ばかりやってもしょうがないから、1単元まとめて全部授業してね。5、6時間くらいかな。とりあえず最初の授業の指導案、書いてみて」

「休み時間はできるだけ子どもといっしょにいてください。このトシになるとつい職員室でひといきつきたくなるんだけど、若いうちは体力勝負! 掃除の時間もね」

「“机間巡視”って、ただ歩きまわればいいってものじゃない。子どもたちのノートを見ながら、どの子ができてどの子がどうまちがっているかパッと目に焼きつけて、教室を1周してくるあいだに頭の中に入ってるようにする。それで次の作戦をたてるんだ」

「放課後、研究授業で描いた図工の作品にコメントを書いておいて。絵のいいところを見つけて、それぞれ違うことばが書けるといいな」

「次の時間のうちに“発見ノート”(日記帳)に返事を書いてみて。なにかひとことずつでいいから、子どもが書いてきた内容にあわせて。45分で26人分、できるでしょう」

「あした、実習最後の日にあいさつが3回あります。朝のうちあわせで職員に、お昼のテレビ放送で全校の子どもたちに、それから5時間目、クラスの子どもたちに。それぞれにあわせたあいさつを考えておいてください。
 クラスのときには10分あげるから、4週間の思いをたっぷり語っていいよ。10分ってけっこう長いもの。パフォーマンスつきで、1曲歌うのもいいかもしれない」


 ふつうに“先生”をしていればあたりまえのことばかり。いや、この数倍の仕事を数十倍の密度で毎日こなしている。それを4週間のうちにできるだけたくさん体験してもらおうという“親心”だ...実習生にはちとハードかな。

 でもN先生、黙々と勉強し、子どもたちと遊び、指導案を書き、実地授業をし、指導教官が次から次へとなげかける課題をクリアしていった。


 N先生の体育の授業。マット運動で開脚前転を教えている。

「こうやってまわって、足を開いて立つ...」

 模範演技を見せるN先生。足を開いたところまではよかったが、立ちあがろうと踏んばって踏んばって、あがりきれずにドスンとしりもちをついてしまった。
 指導教官の出番だ。

「N先生、もう一度やってみてください。まわったときに・・・というふうにして」

 N先生、マットの端に立ち、手をついて前転、足を開き、・・・すると、あら不思議! さっき失敗した開脚前転がみごとに成功してしまった。

 スタート地点に立ったばかりの実習生と20年近くの経験を積んだ教師と。レベルの差がはっきりとあらわれた場面だった。

──“あらわれた”というよりも“見せつけた”といったほうが適切かもしれない。教師の仕事の奥深さとおもしろさ、そしてすばらしさを感じてもらえただろうか。


 教育実習ものこすところあと1日。
 そろそろ“とびきり極上のプレゼント”の準備にとりかかるとするか。

web『たまてばこ』 No.318 2002-07-20-Sat


教育実習〜幕間

 土曜日の午後。梅雨入り前のおだやかな陽光が部屋に差しこんでいる。
 4週間おつとめ≠オた疲れとすべてをなしとげた脱力感──それはたいへん心地よいものであった──を感じながら帰宅し、使いなれた座椅子に腰をおろした。

 お別れにいただいた手紙のたばが目の前にある。原稿用紙に書かれたメッセージが40枚、色画用紙を表紙に綴じてある。教育実習の最終日、指導教官のH先生が「教生の先生に手紙を書いてください」と5年1組の子どもたちに書かせてくださったものだ。

 ラブレターでも読むような気持ちで藍色の表紙をめくると、用紙いっぱいに書かれた○い○○(ある食べもの)の絵が目に飛びこんできた。現物そっくりに色鉛筆で彩色してある。
 先生の大すきな○い○○
 やられた。「大すき」だって! 給食に出た“これ”が死ぬほど嫌いで、食べずに残してさんざんからかわれたのを思い出す。
「なんできらいなの?」
 小さいころから苦手だったんだ。
「おいしいよ」
 うそだ。こんなにまずいものはない。
「たくさん入れちゃおう」
 やめてくれー!

 先生が初めてこの学校に来た時、人の事はいえないけど、先生の字、紙に書いたらじょうずだけど、黒板に書くととてもへたでした。今はもう、黒板に書いても字がいがいとじょうずになったからよかったですね。
 チョークの正しい持ち方すら知らなかったから、みんなが帰ったあとの教室で黒板に字を書く練習をしたんだ。1文字の大きさはどのくらいか、1行に何文字書けるか、縦にまっすぐ書くにはどうするか、何度も練習したんだ。

 先生がこのクラスにきてから、学校へ行くのが楽しくなりました。それに、先生のじゅぎょうもなんとなく楽しくて、勉強しやすかったです。
 この学校にきたばかりでも、みんなにすぐになれました。授業がおわると、みんなは先生の所へいって、せなかにのったり、まるでみんなは先生の子どものようです。

 学校へ行くのが楽しくなった、勉強しやすかった、先生の子どものよう──たいした授業はできなかったけれど、Mちゃん、ほんとうにうれしいよ。ありがとう。

 これをかいた土曜日、先生は○○○というなまえですね、それで一つの花をもってきて、なまえとおなじような花をかびんにいれましたね。先生はそこにいます。
 そう。みんなにプレゼントしたあの花。ぼくの名前とそっくりだから、主役をひきたたせる脇役の花が好きだから、それをここに置いていくから、みんな忘れないでねって言ったっけ。Kくん、そんなふうに思ってくれたんだ。

 つい3時間ほど前のことなのに、遠い昔のできごとのようにも感じてしまう。
 子どもたちの顔を思いうかべていると、胸から鼻、そして目頭へ、熱いものがこみあげてきた。視界がぼやけ、手紙がにじんで見える。おさえようにもおさえきれない。

 涙が一粒こぼれてしまった。一粒こぼれると、あとからあとからあふれてくる。いったん開いてしまった涙腺は自分の意志ではもうふさぐことができない。

 ううん、こらえることなんてないよ。ぼくたちも悲しいから、先生も思いきり泣いていいよ──みんなが手紙の中からそう言っている。
 かすんだ目で次を読む。

 4週間って、とっても短いんですね。
 初めて先生が学校に来た時、私はとってもはずかしかったです。でも、いろいろ勉強していくうちに、はずかしさはなくなり、サインまでしてもらって、すぐ4週間がすぎてしまいました。そして、今日で最後です。

 最初先生をみて、こわいと思いました。だけど、いっしょにいろんなことをやっているうちに、なれました。

 6月11日の岩をほる時、始めは気げんが良かったけれども、4時間目の終わりの方で気げんが悪くなりましたね。そのときの先生はきらいです。
 でもいつものにこにこ顔で毎日をすごして下さい。ほんとうに4週間ありがとうございました。


 先生はひととおりの授業を教えてくださったけど、家庭科とどうとくだけ教えてくれませんでしたね。できないからですか?
 でも楽しかった4週間でした。先生、わすれないでね。


 先生は、頭も良くて、顔も良くて、鼻も大きくて、口も大きい、かっこいい先生。今日でもうさよならするけど、また会おうね。
  いつまでも たえることなく ともだちでいよう
  あすのひを ゆめみて きぼうのみちを...


 Tくんの書いてくれた「今日の日はさようなら」のメロディが頭をかけめぐる。
 もう一度初めから読みかえそう...いやもったいない。何度も読むとせっかくの思い出が色あせてしまうような気がする。
 でも、でも、もう一度だけ。

 先生、たった4週間だったけれどとっても楽しかった。りっぱな先生になったら、Y小学校へ来てください。Y小学校へこれなくても、ぜったいY小学校をわすれないでね。

 4週間、わたしたちに勉強をおしえてくれてどうもありがとうございました。ちがう学校に行っても、Y小学校のことはわすれないでください。私たちも先生と遠足に行ったことや、いっぱいの先生がうしろでみていた所で勉強をしたことなどはわすれません。
 これからもがんばってください。はやく先生になれるといいですね。


 ぜったいぜったいぜったいぜったいぜったいぜったいぜっったいぜっっったいY小学校の先生に、しかもH先生にはわるいけど、6年1組をきぼうしてください。びょうきやけがをしないように、がんばってください。
 バイバイ!


 ありがとう。手紙書くよ。
 ありがとう。また遊びに行くよ。
 ありがとう。みんなのこと、けっして忘れないよ。
 ありがとう。きっといい先生になるよ。
 5年1組のみんな、ありがとう。
 ほんとうに、ありがとう。


 ロフトにしまってある段ボールの中から「教育実習(T) Y小学校」と書かれたボックスファイルをひっぱりだした。
 中から出てきたのは、びっしりと書きこんだ実習日誌、4ミリ方眼のファックス原紙に手書きした7教科分の指導案つづり、授業に使った掲示物、行事予定など職員会議の資料、そして、子どもたちからの手紙。

 あれから20年がたつ。
 表紙の藍色はうすれ、白かったはずの原稿用紙も黄ばんでいる。けれど、思い出はいまでもあざやかによみがえってくる。

 教育実習のたった4週間でさえこれだけ感動してしまう。“先生”ってなんてすてきな仕事なんだろう。ほんものの“先生”として学級を担任し、子どもたちとすごすことができたら...。
 手紙を読んで泣いたあのとき、「小学校の先生になりたい」と心の底から思ったのだった。


「教育実習にいくと人生が変わる」

 先輩やゼミの先生にそう言われていたが、半信半疑だった。

「どこがどう変わるんですか?」
「うーん、ことばじゃ言いあらわせないな。少なくとも、自分が教師にむいてるかむいてないかがはっきりするよ。ま、とにかく、いけばわかる」
「いけばわかるって言われても...」

 それまでも「先生になりたい」とは思っていた。それがはっきりとした形となったのは、たしかに教育実習を経験してからだった。「人生が変わる」ということば、大げさではなかった。


 N先生、いよいよ最終日です。覚悟はできていますか。

web『たまてばこ』 No.319 2002-08-06-Tue


教育実習〜4

 実習最終日。とびきり極上のプレゼント作戦を開始しよう。

「最後の日は教室にいるのがふつうだけど、授業を見せてくださるクラスがあるから3時間目と4時間目は参観に行ってきてください」

 「授業参観」というのはもちろん教室からN先生を追い出すための方便。わけを話し、2つのクラスの先生に事前にお願いしておいたものだ。

 20分休みが終わるとN先生はノートを持って教室を出て行った。
 姿が見えなくなったのをたしかめてから、クラスの子どもたちに20年前の“ひげ”の経験をかいつまんで話し、プレゼント作戦への協力を求めた。

「実習の最後の日って、それだけ特別のものなんだ。そこで、5時間目の『お別れ会』のためにみんなにやってほしいこと。N先生に手紙を書いてください。4週間を思い出して、ていねいに、心をこめて。もちろん内緒だよ。それをまとめて、最後に渡してびっくりさせたいから」

 うなずいた子どもたちは、配られたメッセージカードにそれぞれの思いをしたためていく。授業のこと、休み時間のこと...N先生が全身全霊をかけてうちこんだ“4週間”がそこにあるから、「書くことないよー」と鉛筆が止まる子はひとりもいない。

 3時間目と4時間目のあいだにN先生が教室に戻ってくるかもしれないというので、カードをいったん引き出しに隠すことにした。かわりに別の教科書とノートを机上に用意しておくほどの手のこみようだ。
 案の定もどってきたN先生を何食わぬ顔で次の教室に送り出し、あらためてメッセージにとりかかる。子どもたちも作戦に乗り気になってくれている。

 1時間以上かけて書いた手紙は色鉛筆でとりどりに飾られ、胸をうつことばがつづられている。これを読んで感動しなければ4週間の実習はニセモノだ。そんなことを思いながら、みんなの手紙をクリアブックに一枚ずつおさめていった。

 準備はととのった。あとは5時間目の「お別れ会」──それはとびきり極上のプレゼントを渡すにふさわしい場面となるはずである──を待つだけとなった。
 なにも知らないN先生は、最後の掃除の時間、一人で黙々と教室の窓や桟をふいていた。

web『たまてばこ』 No.320 2002-08-12-Mon


教育実習〜5

 6月14日。N先生の教育実習もいよいよ最終日です。

 5校時を「お別れ会」にあて、前半は体育館でドッジボールをしました。あまり痛くないように、ソフトバレーボールを使います。いつも休み時間に遊んでいるのとはルールを変え、児童会のドッジボール大会のリハーサルを兼ねて大会と同じルールで楽しみました。

 同じくらいのレベルの友だちジャンケンをして2チームに分かれます。N先生もぼくとジャンケンをしてチームに入りました。
 10分間のゲーム、スタート。ねらって投げこむボールの速さに感嘆の声があがり、それをキャッチする子にため息がもれます。
 でも“上手な子”もけっしてボールをひとりじめにしたりしません。ゆずるときにはゆずり、加減するときには加減して、クラスみんなが楽しめるように考えてくれます。
 珍プレーも続出。そのたびにみんなで腹の底から大笑いです。

 ゲームの勝ち負けは二の次。なにかひとつのことをクラスみんなでいっしょに経験することの楽しさ、おもしろさを味わうことができました。たっぷり汗をかいた子どもたち、とても満足した表情をしていました。
(担任っていいもんです。N先生、このときの子どもたちの顔、忘れないでね)

 「お別れ会」の後半はN先生オンステージです。
 前日、
「実習の総しあげとして、子どもたちの前で10分間なにかやってください」
 と課題を出しておきました。教育実習の“卒業試験”です。

 黒板の前に置いた椅子に腰掛けた先生。向かいあうように子どもたちが床に座りました。

「5月20日から4週間、とても短く感じた。今日は自分の卒業の日。みんなにとっても卒業だね」

 文章ではうまく表現できません。こんなにぶっきらぼうな言い方ではなく、ゆっくりとかみしめるように、子どもたちと対話しながら、少しずつ話をすすめていきます。

「いつか“本物の”先生になってT小の職員室にいるかもしれない。見かけたら声をかけてほしい」

 ギターを取りだし、弾き語りで1曲披露してくれました。

  ♪ 君よずっと幸せに 風にそっと歌うよ 愛は今も 愛のままで

 福山雅治の「桜坂」です。はじめはややおさえ気味でしたが(照れてた?)、だんだんと歌の世界にはまってきて、声量もアップしてきました。
 子どもたち、N先生をじっと見つめています。食い入るような、真剣な表情です。別れの悲壮感というのとは少しちがいます。ドッジボールの満足感とはちがった意味の満足感を味わっているのでしょう。
(担任っていいもんです。N先生、このときの子どもたちの顔も、忘れないでね)

  ♪ 愛と知っていたのに 春はやってくるのに 夢は今も 夢のままで
   春よずっと幸せに 風にそっと歌うよ 愛は今も 愛のまま


「もう1曲歌って!」

 子どもたちのアンコールにこたえ、音楽の時間に教えてくれた「君をのせて」(「ラピュタ」のテーマ曲)の楽譜を広げました。

  ♪ あの地平線 かがやくのは どこかに君を 隠しているから

 もうN先生だけにまかせてはいられないと、子どもたちが声をあわせて歌いだしました。N先生といっしょに、N先生のために歌うんだ、その思いが歌声になります。ふだんの音楽の時間には聞けない、はりのある声が教室にひびきます。「歌」って、気持ちで歌うものなんですね。

「『発見ノート』を配ります。今日も一生懸命コメントを書いたから、読んでください。名前を呼んだら、一人ずつ出てきてください。卒業証書みたいに渡すから」

*「発見ノート」:毎日書かせている「日記」のようなもの


 ノートを渡し、一人ひとりと握手していきます。
 実習2週目の月曜日、覚えた名前を呼びながら一人ひとりと握手していた姿が思いうかびました。あのときのぎこちなさもすっかりなくなり、子どもたちと自然にやりとりしています。

 朝も、休み時間も、給食も掃除の時間も、ずっと子どもたちの中にいたN先生。5教科11時間の授業+全日経営1日の課題を誠実にこなしてきたN先生。その成果がみごとに発揮された「お別れ会」でした。
 “卒業試験”の答案、たしかに見届けました。評価はもちろん「優」ですね。

 最後に、子どもたちからのメッセージをつめこんだファイルをプレゼントしました。交流のひまわり級からも手紙が届きました。みんなが帰ったあと、一人ひとりを思い浮かべながら読んでくれることでしょう。
 N先生、ほんとうにお疲れさま。

*4年1組学級通信『ふくろう便』No.038 より



 “貧乏くじ男”もこれでお役御免。急いで帰ろう。チュニジア戦が始まってしまう...。

web『たまてばこ』 No.321 2002-08-16-Fri


教育実習〜6

 N先生が学校を去った日、クラスの子がこんな日記を書いた。

 N先生の実習が終わってしまった。おわかれのドッジボールと歌を歌ったのは楽しかったけれど、とてもかなしかった。

 家に帰ってから、ぼくはないてしまった。
 お母さんが、
「どうしたの?」ときいたので、
「実習が終わってさようならしたことがさみしくてかなしい」っていったら、
「心が成長したしょうこだよ」と言われた。

「さみしかったりかなしかったりした時は、ないていいんだよ」
 とお母さんがいった。だからぼくはないた。
「N先生、がんばってべん強して、しけんにうかって、先生になって下さい」とぼくは思った。

 ぼくもN先生とすごした時間は楽しかったけれど、N先生も楽しかったかな?

 ようち園の時にも実習に来たことがあった。ぼくたちは遊んでもらえることがうれしくて、先生にキックやパンチをおみまいして、先生の体じゅうにあざをつくってしまった。あやまったけど、今思うとほんとに悪いことをしたと思う。
 でも、N先生にはそんなことしなかった。どうしてだろう。それは、仲よく遊ぶ方ほうがわかったからだ。

 N先生が先生になったら、T小に来てほしいな。本当の先生になったN先生のじゅぎょうをうけたいな。


 教育実習という得がたい経験をしたN先生も、N先生と深いきずなで結ばれた26人の子どもたちも、ことばでは言いあらわせない大きなものを手にしたにちがいない。


 実習が終わった翌朝、教室にN先生からのプレゼントが残されていた。

 5年生の宿泊学習に体験参加したときに海岸で採集してきたものだろう、貝や石、ガラスのかけらがひとつずつ、子どもたちの机にのせてあった。
 てのひらに隠れてしまうの小さな贈り物。だか、子どもたちは忘れられない思い出のしるしとして、いつまでも大切にしまっておくことだろう。

 そして黒板には太い大きな文字でこんなメッセージが。

4年1組 ありがとう N

 子どもたちにかわって、“ひげ”からも...ありがとう。

web『たまてばこ』 No.322 2002-08-20-Tue


教育実習〜幕外

 数週間後、N先生の所属大学から封書が届いた。おそらく礼状だろうが、便箋1枚というのではない厚みがある。ほかになにか入っている。
 もしかして、図書券?
 そうだよなあ、1か月ものあいだこんなに本務外の仕事をしたんだ。お礼に図書券ぐらいもらってもバチはあたらないよなあ...公務員だけど。

 3000円、ぐらいほしいけど、多すぎるかな。百人(以上?)の学生さんが教育実習に行くのだろうから、大学もそんなには負担できないだろうし。
 かといって、500円、てのもなんかバカにされた感じ。
 1000円、そのあたりが相場かな。ちょうど『ズッコケ』の新刊が出るところだから、買って学級文庫に入れるといい。「N先生からのプレゼントです」って。
 
 広がる妄想をふりはらい、期待をいだいて礼状を読む。

謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
  ──はいはい、清祥だけど疲れてますよ。
さて、この度の教育実習に際しましては、ご多忙の折にもかかわりませず〜
  ──ご多忙の折にかかわりましたけど、あたっちゃったもんでね。
今後ともご指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。 敬白
  ──いえいえ、こちらこそよろしく。で、肝心のブツは...。

追伸:粗品ではございますが、御礼のしるしまでに、付箋紙を同封致しましたので、ご笑納下さいますようお願い申し上げます。

 付箋紙。大中小のセットで、ごていねいに大学のロゴ入り。これが厚みの正体だった。あわい期待ははかなくついえてしまった。
 あんな妄想しなきゃよかった。ああ、図書券...。

web『たまてばこ』 No.323 2002-08-24-Sat